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20世紀写真の巨匠、アンセル・アダムス(Ansel Adams米1902−1984)は、それまで絵画や彫刻のみを収蔵してきた美術館に、写真のコレクションを開始させるきっかけを作った一人。彼の撮ったヨセミテやグランドキャニオンなどの写真は、豊かな中間階調を持つプリントによって、モノクロ写真ながら見る人に雄大な自然の“色”までも思い起こさせてくれる作品であった。彼は、“写真”を芸術の域にまで高めた功労者とも言える写真家なのだ。彼の作品は、高度な撮影テクニックから生まれてきたのではなく、オリジナリティとクオリティを高い次元で両立した“オリジナルプリント”によって実現されていたのは、あまりにも有名な話。撮影から現像、プリントまでのすべての工程をこなすオリジナルプリントは、カメラマンにとって“究極の表現方法”とも言える。

ところが、1970年以降、写真の主流がカラーに取って代わられると、プリントはプロラボやDPEショップの領域へと移り変わり、カメラマンはオリジナリティを撮影テクニックに求める傾向が強くなってきた。とはいえ、テクニックだけでカバーできる範囲は限られているため、高価なカラープリント環境を導入してまでオリジナルプリントにこだわるプロカメラマンもいたほどだ。

そして、来たるべき“デジタル”の時代、カメラマンは撮影からプリント(印刷)までのフルプロセスを処理することで、自分だけの作品を作り上げられる“オリジナルプリント”環境を、その手に取り戻すことができるようになる。 |
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すでにカメラ市場の主力商品は“銀塩”から“デジタル”へと移行したが、写真芸術の世界では、いまだに「銀塩でなければ写真ではない」といったスタンスを取る人も少なくない。

しかし、思い起こしてみれば、カラーフィルムが写真の主役に躍り出たときも、「モノクロでなければ写真ではない」といった“モノクロ至上主義”とも言える状況があった。カラー写真が当たり前となった1980年代でさえ、プロの現場などではモノクロが好まれ、雑誌のグラビアなどにも数多くの作品が掲載されていたことを憶えている人も多いだろう。

こうした懐古主義的な思想は、ものごとが転換期に差し掛かり、プロの厳しい目も新世代の技術に向けられていることを意味している。

その一方で、「デジタルカメラの表現域は銀塩を超えた」と言われても、それはあくまでもハイエンドのデジタル一眼レフを使った場合に過ぎず、コンシューマ製品が銀塩のレベルに達するのはまだ先のことと考えている人も多い。しかし、ここに掲載した画像を見てほしい。大半がコンパクトデジタルカメラで撮影したものだ。さすがにEOSシリーズなどのデジタル一眼レフとはデータそのものの情報量には差があるのも事実だが、それでもプリントした状態であれば、すでに銀塩写真と遜色のないレベルであることがわかるだろう。 |
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レンズのワイド側(広角側)に起こりやすい樽型歪みも、フォトレタッチの段階で程度を軽減できる。 |
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デジタルカメラの画像など、“デジタルフォト”のメリットの一つに、現像からプリントに至る銀塩写真の世界で言うところの“暗室作業”がカメラマンの手で行なえるので、撮影時のイメージを作品に反映しやすい点がある。これにより、撮影したときのイメージよりも明るくなってしまったり、もう少しコントラストがほしかったりといったシーンでも、後から修正を加えることができ、うまく表現し切れなかったシャッターチャンスを、自分のイメージに近付けられる。むろん、シャッターで封じ込められた時間を動かすことはできないが、デジタルであれば、カメラマンがシャッターを切ったその瞬間のイメージを甦らせることが可能、いわば“2度目のシャッターチャンス”が与えられるのだ。

“明るい暗室”とも言われるパソコンで画像の加工・修正を行なうフォトレタッチは、はじめこそ難しく感じるものの、写真表現の鍵となる階調やコントラストの補正といった基本的な操作は、自分の目でリアルタイムにその効果を確かめながら作業を進められることもあって、慣れるのも早い。さらに、カラーネガフィルムの持つラチチュード(露出に対する許容範囲)の広さを活かし、わざと色相を変えて独特の写真に仕上げるネガアート的な写真表現などもフォトレタッチ作業で可能となり、確実に写真表現の幅を拡げてくれることだろう。 |
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下の画像では、夕暮れならではの空の階調と夕日に映える海の色を引き立たせるため、わずかに認められる色カブリを補正している。 |
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プロの写真家ほど“デジタルフォト”を印刷する頻度が高い。これは、アマチュアに比べて絶対的な撮影枚数が多いことや、撮影したときのイメージを再現しやすいオリジナルプリントのメリットを正しく理解しているからだ。しかも、その作品を仕上げるのに使われるのは、インクジェットプリンタがほとんど。つまり、最新のインクジェットプリンタの画質は、すでに“写真表現”の一翼を担えるレベルに達していると言える。

その一方で、作品を仕上げるまでの手間は、モノクロやカラーネガを自分で現像・プリントしてきたときよりもかかるようになっている。むろん、フォトレタッチソフトでの作業など、慣れが必要な部分も多いのだが、プロほど“オリジナルプリント”にこだわるのには理由がある。なぜなら、“データ”の状態では、カメラマンの撮影意図が第三者に正確に伝わるとは限らないからだ。

普段見ているパソコンのディスプレイの色味は、ほかの人の色味とは違うケースが多い。これは、同じWindowsマシンであったり、同じメーカー製のパソコンであったりしても起こり得ることだ。フィルムやサービスプリントなどの形で物質化される銀塩写真と異なり、データレベルでやり取りをしても、第三者が必ずしも撮影者のイメージした階調や色を見られるとは限らないのが現状なのだ。つまり、「フォトデータは“印刷”して初めて“写真”になる」ということを理解しておきたい。 |
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花のやわらかさを強調するために、下の画像ではコントラストが強くならないように配慮しながら明るく補正している。 |
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デジタルフォトは、なにもデジタルカメラだけのものではない。これまでの銀塩カメラで撮影してきたフィルムをスキャンすることで、新たな写真表現を実現したり、昔のフィルムをデジタルデータとして保存したりといった、銀塩資産の継承にも役立てることができる。スキャナドライバがフィルムの褪色補正機能などの最新技術を搭載したことで、家庭でのスキャン作業も容易に楽しめるようになっている。

また、最近はデジタルデータを銀塩方式でプリントしてくれるサービスも一般化した上に、これまで多様なフィルムサイズの銀塩フィルムをデジタル化するためには、高価なフィルムスキャナが必要になったり、プロラボなどのサービスを利用する必要があったりと、膨大なフィルムをストックしているユーザーになればなるほど、コスト的な問題がクローズアップされていた。しかし、最近のコンシューマ向けフラットベッドスキャナは、ブローニーサイズに対応したり、RGB各色を16ビット(65536階調)という高階調で保存できたりするため、銀塩フィルムの特性をフルに活かしたデジタル化も家庭で可能なのだ。

デジタルフォトの進化に合わせ、まわりを取り囲むスキャナ、プリンタの技術も急速に進化している。写真においてもっとも重要視される“階調”の面でも、カメラマンが新しい表現を手にできる日はすでにやってきており、それはコンシューマレベルにまで到達している。個人が写真を大いに楽しめる環境が整ったと言っても過言ではない。 |
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