デジタルプリントがもたらしたもの --- 宮原 康弘

− コマーシャルフォトの現場にて −

京都市に生まれる
東京写真専門学校卒業
1984年 株式会社アーバンパブリシティー入社 現 株式会社アマナ
2005年 株式会社アキューブ設立

[賞歴]
広告電通賞、FCC広告賞グランプリ
APA賞入賞、日経広告賞
ニューヨークADCインターナショナルアワード
TIMESアジアパシフィック広告賞(銀賞)
2001年度朝日広告賞F部門(車両・輸送機械の部)部門賞

日本広告写真家協会(APA)会員

この2年ほどの間に広告撮影の現場は様変わりした。広告写真はその利便性や画像処理のしやすさ故、デジタルカメラで行うことがほとんどになった。ポジフィルムと違いモニタ以外に色確認ができないデータの正確な色を伝える方法としてインクジェットプリンタを使用している。デジタルデータを納品する場合、私のモニタで再現される色とADのモニタの色、そして印刷会社のモニタの色は、どんなに合わせても同じ製品であろうとも色は異なる。プリンタでプルーフを作り、データーとともに納品し、出力された色の通りになるように印刷指示すればよい。従来、フィルムは現像所にテスト現像を依頼し、それから本番現像をするという作業が必要だったが、それがいらなくなったことは作業時間の短縮に大きな影響を及ぼした。

色合わせは重要な問題だ。プロカメラマンの場合、色の許容範囲は極めて狭い。板金修理をした車のボディカラーで、素人目には分からなくても専門家が見れば修復したことがすぐに分かってしまうのと同じだ。インクジェットプリンタの出力という“基準”を自分ですぐに作ることができるようになったことは非常に大きい。

デジタルカメラとインクジェットプリンタを使用するようになったきっかけは1年半ほど前に、自分の作品を大量に作る必要があったときだ。作品は最終的にはプリントで見せることが多く、ポジフィルムで撮影すると必ずネガに反転しプリントを発注する作業が必要になる。カラープリントを自分のイメージ通りに再現するためには何度となく現像所とのやり取りが必要になる。この作業が撮影時の感動を薄れさせる原因になっていた。デジタル撮影は撮影終了後、イメージが熱いうちにすぐプリント作品として出力できる。
それまでは正直な話、デジタルの利用にあまり信頼をおいていなかった。ポジ・ネガの存在に対して、デジタルには実体がないと思っていた。フィルムという実体が存在しないことが許せなかった。しかし、プリントという形のあるものを自分で作れるようになるとこれほど便利なものはない。もちろん、ポジの再現性の高さは素晴らしいが、作品を多くの人に見せるのは結局プリントだ。何枚も数多くのプリントを仕上げるのに、デジタルプリントが大いに役立つことが分かった。

コマーシャルフォトでデジタルを使うことにより、最も大きく変わった点は“セット残し”が不要になったことかもしれない。今まではシズルものなどを撮影する場合、狙った通りに水滴が撮れているかはストロボの光量を落として目に残る残像で判断するしかなく、商品ロゴを水滴が隠してしまっていないかといった仕上がり確認のため、現像が上がってくるまで数時間セットをそのままにして待たなくてはならなかった。
それが今では、その場で確認ができる。もっとも、クライアントとその場で画面を見ながらよりよいものを目指すようになり、撮影にかかる全体の時間はあまり短縮されたとは言い難いのだが…。

デジタルフォトのメリットは、その場で確認作業ができるということだ。そして色を自在に操ることができるため、露出さえ外していなければ撮影に専念できるという点だ。プリンタの出力に合わせて自分のトーンを容易に作ることができる。それをマスターすることが美しいプリントを自分のものにする道といえるだろう。
ただ反面、デジタル化が進んだことで思うことは、画像処理に頼りすぎる部分が増えたということも言っておかなくてはならない。写真は素材が良くなければダメなのは当然だが、画像処理でそこそこのものが作れてしまう。ひどい例になると、車のコマーシャルフォトですら、一見しただけでは分からないが、合成したためか車のパースが背景と違ってしまっているものもあるほどだ。
カメラのテクノロジーが進歩するたびに、撮影技術は要らなくなってきている。私がこの世界に入ったときには、失敗しないで写真を撮影することがプロカメラマンの第一条件だった。それから露出がオートになり、ピントも自動化され…要求される技術は少なくなってきている。技術が要らなくなってきたということは、写真は“感性”が要求される時代になったということだ。良い写真を判断する目はオート化できない。プリントも同じだ。美しいフォトプリントを作るためのプリンタは誰でも手に入れられるようになった。これからは仕上がりを判断する目こそがより上質の作品を作るための要素だ。

良い写真を撮り、よい作品をプリントしたいと思うならば、写真に限らず良いものをたくさん見て研究することだと思う。思い通りに撮れて、出力できるカメラとプリンタは手に入るのだから。



[記事:宮原 康弘 Yasuhiro Miyahara]