「プリント」して楽しむデジタル写真 --- 岡嶋 和幸

− ファインプリントは撮影時に決まる −

1967年1月1日、福岡県福岡市生まれ。
東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。スタジオアシスタント、写真家の沼田早苗氏、森健児氏の助手などを経てフリーランスに。ポートレートを中心に雑誌やCDジャケットなどの写真撮影を担当するほか、1992年より旅写真家としての活動を開始。「みち」をテーマに、国内外の旅行先で撮影した写真をさまざまなメディアで発表している。また、近年はカメラ誌などでデジタルフォト関連の記事を執筆。カメラや撮影に関する解説書の企画・監修も数多く手がけている。「七人のデジタル侍」や「PHOTOS」(フォトス)といった写真家ユニットにも参加し、デジタルフォトの第一線で活躍する仲間たちとデジタル表現の可能性を探求中。

2000年秋に「EOS D30」に出合ったことがきっかけで、わたしの写真環境はフィルムからデジタルへ完全に移行し、フィルムは全く使っておりません。
私は、カメラ誌などでデジタルカメラの新製品レビューや撮影術といった記事を担当させていただくこともありますため、EOSデジタルシリーズのすべての機種での撮影経験がありますが、現在愛用しているのは「EOS 5D」です。EOSデジタルには「EOS-1Ds Mark II」という選択肢もありますが、「35mmフルサイズセンサー」「1,000万画素オーバー」のふたつが、わたしのいまのデジタル一眼レフカメラ選びの基準となっています。

デジタル写真はプリントして選ぶ

現像あるいはプリントをするまで撮った絵柄が見られないフィルム写真とは違い、デジタル写真は撮ってすぐにカメラの液晶モニターで見ることができ、また、パソコンのディスプレイでは大きなサイズで見ることができるため、プリントまでしないユーザーが増加しているとも言われます。
しかし、デジタル写真オンリーの私は、フィルム写真のときよりもプリントをする機会が増えているようです。これは、フィルム写真を利用していた時には、主にカラーはポジフィルムをモノクロはネガフィルムを利用しており、特に雑誌や広告などの商業プリント向けの仕事では、プリントした写真ではなく撮影済みのフィルムそのものがプリント用の原稿となり、フィルムスキャンはプリント会社の担当でしたため、フォトグラファー自身が写真プリントをする機会が少なかったこともその要因といえるでしょう。

ところが、これがデジタルになると、撮影画像をカメラの液晶モニターで見た感じも、パソコンのディスプレイで見た感じのいずれも、ポジフィルムをライトビューアに載せて見た時の印象とは異なる感じを受けますため、写真をセレクトする際に違和感をおぼえます。
そこで、ピントの確認を含めおおまかなセレクトはディスプレイ上で「ZoomBrowser EX」を使ってライトビューア感覚で行いますが、そのあとはインデックスプリントをプリントして絞り込み、さらに絞り込んだ写真をA4サイズにプリントして最終的なセレクトを行います。
これは、どんなに大画面のディスプレイでも、複数の写真を十分な大きさで並べて表示することが不可能だからからです。このため、プリントされた写真をテーブルの上に並べたほうがベストショットの見極めが瞬時にできて、あれこれ比較しながらのセレクト作業も快適に行えます。

そもそも、わたしが撮影した写真は雑誌や広告、あるいは写真展といった方法でたくさんの人の目に触れられるようになるわけですが、それらはいずれも「紙の上で表現されるもの」なのです。
そのため、ディスプレイよりもプリントして見るほうが写真としては自然で、掲載される大きさにプリントして細部を確認したり、プリントしたものを商業印刷用の色見本として提出することもあります。ちなみに、私は、インターネット上に掲載する場合でも、プリントした写真でセレクトしています。
たった1枚の写真のためにたくさんプリントをするのです。

ファインプリントは撮影時に決まる

デジタル写真は、PIXUSシリーズのインクジェットプリンタを利用すれば自宅で気軽に、好きなときに、思いどおりに、しかも低コストでプリントできることが大きな手助けとなっていることでしょう。そして、ラボまかせではなく、満足のいくプリントが得られるまで自分でやれるという楽しみもあるため、ついつい枚数も多くなりがちです。このあたりは、モノクロプリントで暗室にこもっていたときと同じような感覚なのかもしれません。
フォトレタッチを行う際も、まずは何もしないでプリントをして、それを見ながらどこをどのようにしたいか、どのような処理を行うかを検討してレタッチの方向性を決めます。ディスプレイ上の写真にフォトレタッチソフトで “いきあたりばったり” の効果を加えるのではなく、完成作品をイメージして、それを実現するための必要最低限のレタッチ処理を行うのです。

ところが、元画像データの状態によっては、思いどおりに仕上げることができないこともあります。それは、撮影時の露出ミスが原因であることがほとんどで、万能といわれるRAW形式で撮影した場合でも同じです。RAWだからといって、撮影で油断した結果、フォトレタッチやプリントするときに後悔させられた経験は数えられないくらいあります。

デジタル写真の画像ファイル形式について、よくフィルム写真にたとえて「JPEGはポジフィルム」「RAWはネガフィルム」などといわれます。前者は、写真の明るさや色がイメージどおりでない場合に、それらをフォトレタッチソフトで修正をすると画質が悪化するため、ポジフィルムと同様に撮影でしっかりと最適化しなくてはなりません。これに対して後者は、RAW現像ソフトでの調整は画質の悪化がないと思われていて、ネガフィルムと同様に、露出などはアバウトに撮影しても問題ないとされているからです。しかし、私はどちらもポジフィルムであると考えます。デジタル写真の露出は思った以上にシビアです。もちろん、RAWの使い方、考え方はユーザーによって様々でしょう。しかし、画質にこだわるなら、ネガフィルムでも適正露出からのプリントがいちばん美しく仕上がるように、RAWでも現像時に明るさの調整を行わなくてよい適正露出で撮影されたRAW画像でプリントしたいものです。RAWは万能ではなく、露出ミスの救済といった大幅な明るさの調整を行わなければならない場合では、フォトレタッチソフトでの補正と同様、調整後の画質は目に見えて劣化してしまうのです。

よりフォトジェニックな写真プリントに仕上げるために、RAW現像ソフトやフォトレタッチソフトでの微調整は不可欠です。そのため、撮影ではきめ細かい露出コントロールを行って、いまひとつの写真をごまかすのではなく、『オリジナルの写真自体が美しいものを、より綺麗なプリントに仕上げるための画像処理』を目指しましょう。
そのほうが、画質自身にも、また、調整作業にも負担が少なくなり、デジタルカメラ>パソコン>プリンターの連携もスムーズに行えるようになります。私はすべてRAWで撮影するのですが、このあたりが上手くできていれば、微に入り細にわたる調整を行うためのフォトレタッチソフトの出番はほとんどなく、「Digital Photo Professional」だけで満足のいく仕上がりが得られています。

パソコンでの画像処理やプリントが楽しくなると、撮影のほうもより充実してくるはずです。その相乗効果がデジタル写真のスキルアップにおおいに役立ちます。そして、プリント仕上がりをイメージしながら撮影、さらには「Digital Photo Professional」の機能を意識しながらカメラをコントロールできるようになり、写真の表現力も着実にアップすることでしょう。



[記事:岡嶋 和幸 Kazuyuki Okajima]