入力設定と出力設定


フィルムという「実体」のある安心感、これは何よりも代え難い。それを思い、フィルムを使い続けているアマチュアカメラマンの人たちは多いことだろう。しかし、そんな実体とは裏腹に、扱いに注意しなければならないが故にフットワークが悪くなるのもフィルムの特徴だ。プリントするために現像所に出すのも傷が付くのを恐れたり、プロジェクターを使うときにも、熱が気になってしまったり、結局は整理したあとは仕舞い込んでしまうことが多いのではないだろうか。
そんな写真たちをアクティブにしてくれるのが「スキャナ」だ。スキャナを使って写真をデジタルデータ化することでプリンタでのプリントはもちろん、Webで写真を発表したり、プロジェクターでスライドショーを気軽に作って見せ合ったりすることができる。そして、そのデジタルデータ化こそ、退色や劣化から恒久的に逃れることのできる保存手段でもあるわけだ。そんなことのできるスキャナを使わない手はないだろう。ぜひともスキャナを活用して欲しい。

スキャンニングの手順

はじめにスキャナを活用し、使いこなすために必要な手順、そして個々の作業の意味を解説していこうと思う。
まずスキャン手順。もちろん人それぞれ作業の進め方は異なってくるものだが、ひとつの例を示してみよう。

手順を追って説明すると、まずはドライバソフトを立ち上げ、「詳細設定」でスキャン前にプレビュー、スキャン、色の設定などの条件設定をする。次にフィルムをセットしたらプレビューを行い、どのような色や階調でスキャンされるかを確認する。そして目的に応じた解像度に設定し、色や階調補正を行ない本番スキャンとなる。
もちろん、1カットスキャンするごとにこれだけの手順が必要なわけではなく、慣れてくればある程度省ける部分も出てくる。例えば、解像度設定などは、一度行ってしまえば、目的が変わらない限り、ほぼ設定する必要がなくなってしまう部分だ。また、そういう設定自体を「お気に入り設定」として保存しておくこともできる。もちろん「詳細設定」などはその都度行う必要はない。
ただし、それを自分なりのワークフローとして使いこなすまでにはやはり個々の作業の意味をよく理解し、使いこなすまでには数をこなし、慣れるまで少々時間がかかるだろう。
本スキャン編では、これから個々の説明を基礎編として「目的に応じた入出力の設定」、「露出について」、「色補正の使用方法」、そして「FARE Level3の実際の使用法」など、さらには「色空間」や「カラーマネージメント」、「48/16ビット出力」などをそれぞれ説明していけたらと思う。


入力解像度と出力解像度を理解する

デジタル写真の世界に入ると、至るところで「解像度」という言葉が出てくる。この「解像度」の一般的な意味を考えてみると、像を読み解く度合いのことで、要するに解像の度合いが高ければより細かく、緻密な部分まで読み解くことができ、低ければ大ざっぱな読み解きしかできないことになる。スキャナを扱っていて出てくる解像度は「入力解像度」と「出力解像度」の2つの解像度。この2つの意味をよく間違えないで理解しておくことが必要だ。

<入力解像度>

入力解像度とは、スキャナがフィルムをスキャンするとき、どのくらいの細かさでフィルムを細かく刻みながらデータ化していくか、スキャナに入力されるときの解像度である。この場合は、解像度の値が大きく、つまり刻みが細かくなればなるほどフィルムの詳細なディテールまで表現されたデータということになる。ただし、そのぶんピクセル数が多くなるのでデータ量としては大きくなる。逆に刻みが粗くなればディテールまで再現できなくなるが、そのぶんピクセル数は少なくなってデータは小さくなる。

具体的に説明してみよう。CanoScan8600Fなどでは光学解像度の最高値が4800dpiと高い解像度を誇る。dpi(ディーピーアイ)というのは解像度を示す単位で、意味はドット・パー・インチ、つまり1インチ(約2.54cm)辺りのドット数ということになる。慣例的にドットという表現を使っているが、これはピクセルと置き換えるとわかりやすい。例えばこの最高解像度4800dpiでスキャンするということは、1インチの長さを4800分割してデータ化していく、ということになる。35ミリフィルム1コマの短辺が約24ミリなので(長辺は36ミリ)、短辺を約1インチとすれば、最高解像度でスキャンすればだいたい1コマが4800×7200ピクセルのデータとしてスキャンされることになる。単純に画素数で考えると4800×7200=3456万ピクセルにもなり、そのデータの大きさがわかると思う。



フィルムをスキャナに取り込む(入力する)時の解像度が「入力解像度」である

dpiはドット・パー・インチ。4800dpiというのは、1インチあたりを4800ドット(ピクセル)にする、つまり1インチを4800分割してひとつひとつをデータ化していきますよ、ということだ。したがってこの数字が大きくなればなるほど、より細かく、緻密なデータになる、ということだ。



<出力解像度>

次に出力解像度だが、これはスキャンして得たデータをプリントするとき、どのくらいの緻密さを持たせるかという設定で、スキャナからパソコンに出力されるときの解像度だ。同じ意味で「画像解像度」「プリンタ出力解像度」などともいう。入力解像度と同じく、解像度の数字が大きければ緻密になるが、ちょっと異なるのは高すぎる必要はない、という点だ。なぜかというと、これはプリンタの表現できる解像感が関係してくる。ある一定の解像度を超えると視覚的には結果が同じ、つまり変わらなくなり、それを越える高解像度を持つデータでもプリントには反映されず、データが大きいことでデータ転送時間に無駄に時間がかかるだけということになってしまう。

そこでだいたいの出力解像度の目安は、200〜400dpi程度の値が実用的な値と考えていい。今のPIXUSのように超精細な表現が可能になっている高性能なプリンタでは200dpiと300dpi、さらに400dpiと比べれば、明らかに400dpiのデータからのプリントがディテール描写で差が付くことになる。ただそれ以上の解像度になると差に気が付かない程度になる(グラフィックなどでは差がわかることもある)。PIXUSを使ってA3ノビサイズくらいまでのハイクオリティな作品プリントを目指すのであれば200dpiとはいわず、300〜400dpiはあった方がいいだろう。それより多いぶんには先ほど言ったようにあまり画質は変わらなくなるが、場合によっては無駄にデータを送る時間がかかることになる。問題は解像度が小さい場合。粗い感じでディテールが甘いプリントとなり、ひどければギザギザした感じのモザイクが現れてしまうほどの描写になってしまうので注意が必要だ。出力解像度は「適度」がまず大切ということだ。



スキャナに取り込んだデータをパソコンに渡すときの解像度は「出力解像度」である



35ミリフィルムを2Lプリントサイズ用の大きさで200dpi、300dpi、400dpi、600dpiになるようにスキャン、そのデータからそのままPIXUSiP8600でプリントしてみた。プリントをチラッと見るだけではほとんどその差は感じないが、ちょっと目を凝らしてみるとディテールでは明らかに差が付くのがわかる。200dpiではモザイク状にピクセルが表出してきている。ここまでプリンタの性能は上がってきているのだ。プリントするならばできるだけ300dpi以上の解像度は持たせたいところだ。


スキャンする目的とそれに合った入力・出力設定

では実際にスキャンするときの解像度設定はどうすればいいか?それには「目的」によって2つの方法がある。ひとつは、まずは保存すること自体が目的で、用途が決まっていない場合。もうひとつはプリント、ホームページやメールなどでやり取りするなど、使う大きさがあらかじめ決まっている場合。それぞれの場合について、具体的にスキャンドライバScanGearCSでの[拡張モード]での設定をしながら説明してみよう。

<高画質保存&大伸ばしを意識してスキャンする方法>

スキャンする目的として、具体的な用途はわからないけれども、とにかくフィルムをデジタル化して保存しておきたいという「保存」自体が目的というケースは多いだろう。それも作品として残しておきたいというセレクションカットのスキャンとなれば、出来るだけいい画質で残したい。となれば解像度設定はスキャナの高解像度性能をできるだけ生かしたい。例えばCanoscan8600Fを使って35ミリフィルムをスキャンするのであれば、出力解像度設定のところで最高解像度である4800dpiに設定し、クロップは無しでスキャンするのがいいだろう。

ここでひとつ疑問が浮かぶ人もいるだろう。そう、4800dpiの設定をするのは入力解像度ではないのか?ということだ。ScanGearCSの場合、解像度の設定は[出力設定]の[出力解像度]のみで行う。もし用紙サイズなどが決まっていて、単にプリントに必要な解像度でスキャンする場合は例えば[出力解像度]300dpi、[出力サイズ]A4のように設定すればOKだが、上記のように保存目的の場合のように出力サイズ未定の場合は出力解像度=入力解像度と考えればOKだ。したがって最大解像度でスキャンしたい場合は、この[出力解像度]を4800dpiにし、[出力サイズ]はフリーサイズでスキャンし、プリント時にフォトレタッチソフトなどを使って、あとで出力解像度を設定し直せばいい。


[出力設定]の[出力解像度]を4800dpi、[出力サイズ]をフリーサイズに設定してスキャンすれば、プレビューされている画面がそのまま最高解像度4800dpiでスキャンされる。






周囲を切り取られるのが気になる人は、[詳細設定]→[プレビュー]で[フィルムサムネイル表示時の切り出しサイズ]を[大きめ]を選択すると黒フチまでスキャンできる。できるだけノートリミングで保存したいという人にはオススメな設定だ。





<プリントする大きさが決まっている場合のスキャン方法>

プリントするなど、使用する大きさがあらかじめ決まっている場合もある。例えば、A3ノビサイズくらい大きなプリントがしたいという場合、A4の大きさで作品集を作りたいからプリントしたいなど、いろんなケースがあるだろう。出力解像度のところで説明した通り、プリントするには適度な解像度が必要だ。その解像度と用紙サイズが決まっている場合は、設定は非常に簡単だ。例えばA4の用紙に400dpiでプリントしたければ、ScanGearCSで[出力解像度]を400dpiに設定、[出力サイズ]をA4を選んでスキャンすればOK。この場合、実際の入力解像度は自動的に設定される。ただ、元々のフィルムの縦横比に近いプレビューで示されるサムネイルの縦横比とA4サイズの縦横比では比率が異なるため、必ずトリミングされてしまう部分が出てくる。これは[出力サイズ]をA4を選んだ時点でプレビュー画面に点線として表示されるので、好みの位置に合わせ設定するといいだろう。点線に囲まれた角をドラッグすれば比は保たれたままクロップ範囲も変えることができる。



まず[出力設定]の[出力サイズ]でプリント用紙の大きさを決め、そして[出力解像度]で解像度を決める。用紙サイズとプレビューの縦横比は異なるので切り捨てざるを得ない部分が出てくる。用紙に合わせた比の矩形が点線で示されるので、それを自分で位置を合わせスキャンすればOKだ。




<L判の簡単スキャンする>

とりあえず気軽にL判にしたいとか、作品だけれども試しにL判でプリントにして見てみたいなんていう場合には[拡張モード]では逆にややこしく感じてしまう。そういうときは素直にScanGearCSの[基本モード]を大いに活用した方が、楽で手っ取り早い。とくに取り込みカット数が多い場合には[マルチスキャン]を利用すると非常に便利だ。また、これは拡張モードでも使えるが、インデックス機能はフィルム整理にはベタ焼き代わりになり便利。ScanGearCSは簡単にも使えるし、必要なときには突っ込んだ設定もできる。上手に使い分けたいところだ。



簡単にDPE感覚でプリントしたいなら積極的に[基本モード]の[マルチスキャン]も活用したい。



インデックス機能はスキャンした画像の整理には非常に便利。
基本モードからも拡張モードからも使える。

解像度をどこまで意識して使うか?

<解像度自動設定のソフトでは>

出力解像度のとらえ方だが、ソフトによっては解像度そのものを意識せずに使えるようになっているソフトも多数ある。例えばEasy-PhotoPrintを使ってプリントする場合は、解像度を全く意識せずに使えるようになっている。フォトショップでも[プリント]設定でプリントしたい大きさのみを意識して設定したり、またドライバソフトでフチ無しプリントを行ったりすれば、すべてソフトが自動的に解像度を変更してプリントされることになる。こういう使い方においては、ユーザーとしては「解像度が足りているか」だけを気にしていれば大丈夫ということになる。昔は性能の点で解像度が不足していたり、デジタルカメラでも画素数が少なかったりで、解像度をより意識して使うことが必要だったけれども、スキャナも超高解像度、デジタルカメラも十分高画素になり、その余裕のおかげもあり、解像度を意識しないで使っても問題なくなったといっていいだろう。



Easy-PhotoPrintでは解像度には全く触れずにプリントできる。
簡単プリントソフトにとって、なによりもそれが利点だ。

<解像度の数字が半端>

保存目的として最高解像度4800dpiでスキャンしたデータをあらためてフォトレタッチソフトで整え、プリントするときの場合を考えてみよう。例えばフォトショップを使う場合、[画像解像度]で縦横の大きさだけ合わせた場合、リサイズをしなければほとんどの場合、解像度は小数点が付いてしまうような非常に中途半端な数字になってしまう。「果たしてこのままでいいのだろうか」と不安になってしまうが、これはこのままでOK。プリント時、解像度をきっちり300dpi、400dpiという数字にしなくてはいけない、ということはない。逆に揃えたとするとリサイズすることになり、これは言い換えてみれば拡大縮小の「変形」を施したことになる。こうなると少なからず画像の劣化が起こる。小数点が付いて半端な感じがしてもそのままプリントして全然問題ないということだ。



4800dpiでスキャンした画像を同梱のフォトショップエレメンツの[画像解像度]で開いて見たのが上のダイアログだ。



これをA3ノビの紙(483×329ミリ)に、上下の白フチを1センチ幅で付けてプリントするとして高さを309ミリに設定してみたのが上のダイアログの設定だ。解像度は小数点になり、非常に半端な数字になってしまったが、このままプリントしてOKである。

<ブローニーフィルムや4×5判をスキャンする>

645や6×6などのブローニーフィルム、さらには4×5判など大きなフィルムが使われ続けているメリットというのは原判が大きく、拡大に強いということ。例えば35ミリからのプリントと645からのプリント、同じ種類のフィルムを使い同じ大きさにしたとしたら、645からのプリントの方が拡大率が低く済み、粒状性の点でもより滑らかに表現できる。だからスキャンするときも、そのメリットを享受するには4800dpiでスキャンすればベストだけれども、それをするとデータ量が大きくなりすぎて大変なことになる。まずはデータ量を示した表を見てもらえばわかるように、1枚に付き100MBは優に超えてしまうコトはざらだ。となると、やはり使い勝手のよさそうなスキャン解像度に落としてスキャンする方がベターということになる。表に示しているように4800dpiと同時に2400dpi、1200dpiと各解像度でスキャンした際のデータ量、そしてプリントする大きさに対する出力解像度を見て、ブローニーフィルムや4×5フィルムをスキャンする際の参考にしてみてほしい。なお、スキャン時のピクセル数はフィルムによってその数値は前後する。また、出力解像度はフチ無しプリントをすることを前提に求めてみた。

■35ミリ
入力解像度 ピクセル数 データ量 出力解像度
A4 A3 A3ノビ 半切
4800dpi 6816×4560 88.92MB 551.5dpi 390.0dpi 352.0dpi 325.3dpi
2400dpi 3408×2280 22.23MB 275.8dpi 195.0dpi 176.0dpi 162.7dpi
1200dpi 1740×1140 5.55MB 137.9dpi 97.5dpi 88.0dpi 81.3dpi

やはり4800dpiでスキャンすればA3ノビや半切でも300dpi以上の十分な解像度があるのは心強い。A4での使用がほとんどの人は2400dpiでも大丈夫だろう。

■645
入力解像度 ピクセル数 データ量 出力解像度
A4 A3 A3ノビ 半切
4800dpi 10816×7728 239.14MB 925.0dpi 654.1dpi 568.8dpi 551.4dpi
2400dpi 5408×3864 59.78MB 462.5dpi 327.1dpi 284.4dpi 275.7dpi
1200dpi 2704×1932 14.94MB 231.3dpi 163.5dpi 142.2dpi 137.8dpi

4800dpiでのスキャンはさすがに200MB以上となり、それなりの環境が必要だろう。ただし、A3、半切、それ以上でも十分解像度があるので、大伸ばしには有効だ。

■6×7
入力解像度 ピクセル数 データ量 出力解像度
A4 A3 A3ノビ 半切
4800dpi 13040×10736 400.53MB 1115.2dpi 788.6dpi 685.7dpi 766.0dpi
2400dpi 6520×5368 100.13MB 557.6dpi 394.3dpi 342.9dpi 383.0dpi
1200dpi 3260×2684 25.03MB 278.8dpi 197.2dpi 171.4dpi 191.5dpi

4800dpiでは1コマ400MBとなると非常に重く、実用的ではない。2400dpiでもA3ノビでも300dpiを越えるので十分といえるだろう。なお縦横比の関係で半切よりもA3ノビが低い値となっている。


[記事:増田 賢一 Kenichi Masuda]